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「Black Ocean」全曲解説
浜渦です。
Black Oceanの全曲について解説いたします。

・Black Ocean
歌詞と同時に成長した楽曲で、徐々に海洋のイメージも増していった。バイオリニストの桑野聖氏が「浜渦氏の楽曲は映像が浮かぶ」と仰ってくださるように、この曲も漆黒の海洋が目に浮かぶという人が多いらしい。船が大きく揺れて軋む音、ティンパニによる大波、突然全音移調して深海に沈む様子など、確かに海洋表現は徹底されている。さらに「十分すぎるくらい頭のおかしい変態曲」とこの曲を絶賛してくれたギタリスト田部井氏による、サビの「バカにしたかのようなギター」には最初は私は「ダサ!なにしとんねん」とツッコミかけたが、まもなく「こんなバカな船出をする連中がノリノリなのがかっこ良くて仕方が無い」と感じるようになり、なくてはならない要素になった。さらにはアイヌ伝統曲の「トーキトランラン」のフレーズ、30年くらいまえのシンセ×現代音楽の要素など、とにかく充実の楽曲になった。一拍目しか音が集まらない表現なども、ファンタジーロックフェス2012では演奏者全員に寄る「ギュゥイン!」に発展しこれがウケたり、まだ成長の余地を感じさせる。原曲にそこまでやってしまうと陰影が薄まる懸念もあるが、それはそれで聴いてみたいとも思う。Imeruatに匹敵、あるいは超える楽曲が出来るとは思わなかったし、何よりFF13の印籠がついている「閃光アレンジ」より反響が大きかったのは作曲家冥利に尽きる。

・Cirotto
トンコリを用いた四重奏で歌(ウポポ)が付く。おそらくこの編成は世界初であると思われる(それはどうでもいいことなのだが)。歌はアイヌ語で、Minaの先祖の地、幕別町チロットコタンに伝わるものだが、研究者にも解明不能な言葉になってしまっている。古い言葉が多用されているからか、長い伝承期間によって多くの変化があったからか、はっきりしない。Minaの祖母が歌うオープンリールの音源を元に再現した。トンコリはトンコリ奏者の第一人者Sanpe。アイヌ音楽の研究者としても史上最大且つ極めて貴重な資料を産み出している。
 
・Leave me alone
民族や出生地などの動かしようの無い出自の事実は、往々にして他者によってその人の人生を雁字搦めにされるものだが、それは何も悪意によってだけではなく、善意がそうさせることも我々はたくさん経験してきた。賛辞もおなか一杯になるものなのだ。けっしてシネプ、トゥプ…というのは、おやつのことではない。桑野氏は参加していないが、「大好き!」と言っていただいた。次はライブで一緒に演奏する!私も「Imeruat」「Black Ocean」に次いでお気に入りの曲。特にエンディングが。

・Giant
実はMinaのコンテンポラリーダンス曲であり、歌詞は彼女との共作。歌詞にあるようなレジスタンス的、ゲリラ的放送を傍受することがあるかもしれない。そしてそのテーマは切実な「今」であり、我々の祖国である。そして体制でありまた大衆でもあり得る。Leftに対を成す楽曲。闘う声を発するのは、ドイツ人アナウンサーNino Kerlである。

・Haru no kasumi
春霞に放射性なんたらを感じてみた。しかしそれよりも同時に集団心理がある一方へ流れていく「かくあるべし」という同調圧力のほうが気になっていた。それが視界を遮る。うららかな季節だけに妙に怖い。

・Left
Minaの体験談を元にしている。Leave me aloneが間接的表現であれば、こちらはストレートな再現である。講演に出演したMinaの姿は、無許可に撮影され、無許可に民族を代表して闘うヒロインとして新聞に掲載されていた。電話で抗議したが、暖簾に腕押しであった。電話の向こうは「アイヌ民族のため、社会のためにやっているのに」の一点張り。支援者は気づかないうちに支援対象を傷つける。こういうことは一度だけではない。かくして貴重な講演者は失われたのである。それをIMERUATでは闘わず表現に発展させた。Minaにとっても痛快の一曲。

・6Muk
アイヌの伝統楽器ムックリを使った楽曲。認定するのは難しいが、確かにMinaはその名手であるはずである。そしてやはりMinaはいい声をしていることよなぁ。曲名の「6」はライブのレパートリーが少ない上、分数も稼げないということから「6」分程の楽曲が必要だったというところから。「Muk」は「Mukkur」から(Mukkur”i”ではない)。

・Morning Plate
ただの朝の風景を綴った楽曲。最初は子供が歌うような曲にしようと思ったのだが、歌詞が後から出来てきて、徐々に方向性が大人になっていった。アコーディオンは蛇腹姉妹のユニットなどで活躍する佐々木絵実氏。武蔵伝IIの開発の直後だったか、かの小熊英二の著書を読み、彼がキキオンというユニットを作っているということで気になってライブに行ったことがあり、そこでキキオンの一員である佐々木氏と知り合った。本当はFF13でお願いしたかったのだが、ようやく。

・Imeruat
これまでに一番たくさん聴いた。生涯で最も気に入っている。さらに一生心に刻むことになるはず楽曲である。MInaの生まれ故郷の十勝の平原を想像して作った。チロットコタン(鳥のいる沼の村)はもはや村ではなく、どこまでも緑が続く。空は重く曇り、今にも降り出しそうで、緑はますます深くなっていく。風は生暖かいようでいて、しかし肌寒い。不安だが、案じたところで、そこにはもう誰も何も求めてはいない。頬に雨粒を感じたのか、それを確認しようと空を見上げようとした刹那、一筋の閃光に目が眩み、続いて轟音を聴く。舞い降りた彼女の袖は大切な人達の涙で濡れていた。やがて彼女は先祖代々伝わる着物を脱いで歩き始める。もう向かう先ははっきり見えている。

・Littele Me
いろんな意味でヤバいようなヤバくないような楽曲である。これはFF13-2のライトニングのテーマと同じようなアプローチで鈴木光人に装飾してもらった。

・Battaki
縦横無尽のコードワークはSagaFrontier2の「Interludium」に肉薄する唯一の楽曲。たまたま載せたアイヌ伝統曲がタイトルになった。ライブでの盛り上がりはとても楽しい。

・Yaysama
ヤイサマというのはアイヌの即興歌のざっくりとした呼び方である。IMERUATのYaysamaも歌う場所で歌詞が変わる。ライブではオッサンの連弾が伴奏だが、こちらの音源は私の一人ダビング。FF13-2の作曲中に、あまりに重い曲ばかりでストレスが溜まり、気づいたら同じシーケンスデータの中にこれが産まれていた。

・Springs
新しい伝統歌をスタートさせよう…みたいな感じの位置づけ。タイトルは「スーリヤ湖」っぽいのを…という最初の目論みだけが残って、そのままになっただけである。

・Cirotto2_120119(初回特典曲)
「Cirotto」を鈴木光人に編集してもらったものだが、アルバムでは四重奏の位置づけを重んじるべく、シンセの加工がされたこのバージョンは一旦外れることになった。しかしまとまりは素晴らしい。

・Springs Conte(初回特典曲)
「Springs」のコントバージョン。私と田部井で曲を流しながらやった。一度だけ軽く練習しただけの一発録りで、大半がアドリブである。他のコントバージョンも存在するが、そちらのほうがお気に入りのため、仕切りなおして次回以降でやることにした。

(Hamauzu)
[2012/05/16 08:17] | DIARY | page top
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